中山七里 ワルツを踊ろう
五分の四までは、全然ミステリらしくないのに最後にミステリになる、凄い小説だと思いました。
外資系金融会社に勤め、エリートコースを歩んでいた溝端了衛は、リーマンショックによる業績悪化でリストラされ、40歳に近い年齢が災いして再就職もできず、父親の死をきっかけに故郷で暮らすことになる。しかしそこは、東京都とはいえ 西多摩郡にある限界集落。携帯の電波は圏外、住民はみな曲者ぞろい。了衛は何とか地域に溶け込もうと努力するのだが、何をやっても裏目に出て村八分にされてしまう。
ただ一人常識が通じて、相談相手にもなってくれる能見という男も、やはりあることが原因で村八分にされていた。
初めは、唯々 了衛の失敗が可笑しくもあり、哀れでもあり、バカだなあ と突っ込みたくもなるのですが、段々 村民の了衛への嫌がらせは、ヒートアップし、陰湿になっていきます。
そして、愛犬が不審死したことで、とうとう我慢の限界を超えてしまった了衛がしたことは...........。
横溝正史の 八つ墓村 や西村望の 丑三つの村 などを思い出させる場面があったり、作者の 連続殺人鬼カエル男を彷彿させる猟奇性もあります。
また、タイトルのからわかるように、全編をとおして、ヨハンシュトラウスの 美しく青きドナウ のメロディが要所要所に流れるのは、いかにも中山七里らしいです。
排他的で因習に満ちた村落の特殊事情というだけでなく、生活が苦しく、人間関係も不安定になり、貧困と将来が見通せない不安から、他人を気遣う余裕を失うことは、現在の日本では、誰にでも起こりうることなのですね。
大変面白くあっと言う間に読み終えてしまいました。