重松清 ビタミンF
平成12年に刊行されたそうですので、今から20年程前の作品ということになります。
バブル経済で世の中の歯車が狂っている時、働き盛りをむかえ、マンションを買い、子供が小学校にあがるようになった37~8歳の男たち。成長してきた息子や娘と、老いていく親の双方にはさまれ、妻との関係もしっくりこなくなった彼等は、自分の居場所は、本当にこれでいいのか、と自問するようになる。
ニュータウンの団地前で落書きをしたり、自販機から小銭を盗んだりする悪友を拒めなくなっている少年(ゲンコツ)
いたって平凡な暮らしの中で、宝くじを1枚ずつ買っていた亡父と仲間の誘いを断り切れずにいる気の弱い息子(はずれくじ)
本物の恋だと信じていた男に弄ばれた娘と屈託のない息子(パンドラ)
苛められている自分を、架空の転校生に仕立てて、作り話中に逃げようとしていた娘(セッちゃん)
17年前かつての恋人と過ごした海辺のホテルに、その時恋人がホテルの未来ポストに投函した手紙に招待されて、現在の家族4人で再び訪れた37歳の男。今の妻との中は冷え切っていて(なぎさホテルにて)
優等生ぶっていた自分を責め始めた娘と、浪人中の息子の反抗(かさぶたまぶた)
30年以上連れ添った後、家を出て他の男性と同棲していた妻を、再び呼び戻そうとする父親(母帰る) の7つの短編からできています。
どれも中年男性の悲哀が滲んでいて、なんとなく切なくなりますが、人生の中途半端な時期に差し掛かった人たちに贈るエールとも言えるでしょう。
ただ、前に「ファミレス」を読んだ時にも思ったのですが、私としては、あまり好きな作品ではありません。
スッキリしないというか、あまり共感出来ないというか、まあ人生なんてこんなものなのかもね。という曖昧な終わり方をしているからかも知れません。
直木賞受賞作と言っても、やはり人によって好き嫌いはあるのだと思いました。