マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

垣谷美雨 四十歳 未婚出産

 旅行代理店に勤める宮村優子は、部下の水野匠と団体ツアーの下見のために、カンボジアを訪れた。

 日頃のストレスからの解放感からか、異国にいることで感情が高ぶっていたのか?

 自由に闊歩する牛や猿に影響され、暑さで考えがまとまらなくなり、幻想的な月夜に惑わされたからなのか?二人は一夜の間違いを犯してしまう。そして優子は妊娠してしまったのである。

 水野はイケメンの28歳、青木紗絵という美しい恋人がいる。優子は40歳目前である。

 とても彼との結婚など考えられない。しかし、年齢から考えてもこれが子供を産む最後のチャンスではないかと思うと、堕ろす決心がつかない。

 彼女の実家は田舎で、普通と違うことにはまだまだ偏見があり、未婚の母など とても認めてくれるとは思えない。

 会社で、周りにいるのは、パワハラ上司や不妊治療に悩む同僚など、誰にも相談できない。

 横浜に住む姉の真知子に打ち明けると、お腹の子供の父親には、なんとしても真実を告げるべきだと言う。

 彼女が妊娠しているという噂を聞きつけた水野に「まさか俺の子じゃないですよね?」と尋ねられ、優子はお腹の子の父親は、高校の同級生だと嘘をつく。

 そして、あくまで例えばの話のように、いたずらっぽく「もしも水野君の子供だったら、どうした?」と聞いてみると、水野は「土下座は避けられませんね。堕ろしてもらうためなら何でもします」と言う。その上、「流産させます」とも。

 階段から妊婦を突き落とす 昔の映画を思い出した と言うのである。

 彼の残忍そうな横顔を見つめた時、優子は絶対に彼に真実を打ち明けることは出来ないと思うのであった。

 静岡に住む 優子の兄の宏伸は、一度結婚に失敗していた。仕事一途で家庭を顧みなかったことが原因である。しかし今は、未亡人で子連れのブラジル人の恋人がいることがわかる。

 優子の同級生の成瀬昌代は、黒人と結婚して子連れで帰省した。田舎の偏見にも立ち向かって堂々と生きていくつもりのようだ。

 高校時代の同級生で、お寺の住職である近藤凡庸は、優子の子供の戸籍上の父親になってもいい と言ってくれた。

 職場でも妊娠を知られて、居心地悪い雰囲気であったが、数少ない子持ちの女性社員の励ましなどもあり、優子はシングルマザーになることに徐々に自信をつけてゆく。

 もし私が優子の立場であったなら、やはり水野に真実を告げると思います。仮に産むにしても、堕ろすにしても……。

 結婚出来なくても、子供の認知をしてもらえなくても、姉 真知子の言うように彼だけが苦しまず、能天気に生きてゆくことなど許せません。水野も優子と同じように悩み、苦しむべきだと思うからです。

 ただ、水野のように利己的で薄情な男が父親なら、いっそいない方が子供のためかもしれませんが……。

 同じシングルマザーであっても、結婚した後、離婚してそうなるなら仕方ない。でも未婚の母というのは、今の日本ではまだまだ険しい道だと言えるでしょう。

 優子の選択が正しかったのかどうかは、わかりません。でも、子供を産んだことによって彼女が強くなったのは確かだと思います。

 そして未来に希望を持つことができたのも確かでしょう。

 様々な女性が自分に合った選択をし、生きて行ける世の中になってほしいものですね。