マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

主人が亡くなりました

 私事ですが、主人が亡くなりました。癌でした。

 主人が入院中も、気晴らしに本は読んでいたのですが、とてもブログを書く気にはなれず、ずっとほったらかしていました。

 葬儀は終わりましたが、これからいろいろな諸手続きがあり、当分忙しくなりそうです。

 ある程度落ち着いたら、またブログを再開するつもりです。

 読書は嫌なこと、悲しいことを一時でも忘れさせ、別の世界にいざなってくれます。

 どんなに悲しくても、残された者は生きていかなければなりません。

 少しでも明るく生きていけるよう、これからも読書を続けていこうと思っています。

 宜しくお願いします。

垣谷美雨 夫のカノジョ

 今までいろいろと垣谷さんの作品を読んできましたが、一番大笑いしてしまった作品かもしれません。

 小松原菱子は、2LDK+S、58平米のマンションに、夫と中3の娘、小5の息子の4人で暮らしているおり、彼女の目下最大の目標は、手狭になったマンションの買い替えである。

 夫が前夜パソコンで検索していた、マンションの物件情報を見てみようと、履歴ボタンをクリックすると、ずらりと並んだ不動産関係のサイトの中、菱子は一つだけ異質のサイトを見つける。「星見のひとりごと」何だろう、これ?

 思わずアクセスすると、それは若い女の子のブログだった。

 「ムギのバカヤロー」の文字。えっ?「ムギ」?これってもしや夫の麦太郎のこと?

 読めば読むほど「ムギ」が麦太郎であることが明らかになってくる。

 もやもやしたものを抱えたまま迎えた、翌土曜日の朝、休日出勤だと言って家を出た夫を、菱子は尾行する。

 夫は見知らぬ駅で降り、小さなマンションに入って行ったのだ。

 その後、マンションから夫と浮気相手と見られる若い女が出て来る。

 スーパーで買い物を済ませた二人に、一人の青年が声をかけ、三人でマンションに入っていく姿を見た菱子は、夫が頻繁に相手の元に通っている為、住人とも顔見知りなのだと思い込む。

 悶々とした想いを抱えて、家事もパートの仕事も疎かになりがちな菱子は、相手の女性のもとに電話を入れ、会いたいと告げる。

 これ以上主人と関わらないで欲しい と言う菱子に、相手の女性 山岸星見は、一生懸命なのはムギの方なので、断れないと言うのだ。

 「人を弄ぶのはやめなさい!」と菱子が大声を出した時、背後から現れたのは、真っ赤なロングドレスを着たババア、ホームレスかと思うような薄汚れた老婆だった。

 「物事はなんでん相手ん立場ん立って考えてみることが大切ばい」

 そして老婆が、ショールを左右に振り始め、「えいやっ!」と気合を発すると、なんと菱子と星見 二人の身体が入れ替わってしまったのである。

 「相手の気持ちば芯までわかったら元に戻るけん」という言葉を残し、老婆は消え去ってしまう。

 ここから、菱子は星見として、星見は菱子として暮らさなければならなくなり、どんどん話が面白くなっていく。

 星見は、夫の勤める会社で働く派遣社員である。

 元ヤンキーの星見は、常識を知らず言葉遣いもひどい。でも彼女の生い立ちは、不幸としか言いようがなかった。3歳の時に父親が事故死をして母子家庭だったため、星見はずっと一人ぼっちだった。中学の時には、母親が男を作って家に帰って来なくなり、今でも母親から金の無心をされている。そんな彼女が自立して一人で生きていくのは、並大抵の苦労ではなかったはずである。そんな星見の立場を、菱子は徐々に理解していくのであった。

 また、夫麦太郎の会社での立場や仕事の大変さも、菱子は身近で感じるようになる。

 星見は星見で、主婦としては全く落第ではあるが、歯に衣を着せない率直な彼女の意見が、周囲を救い、共感を得るようになる。

 今まで過保護に育てられてきた、菱子の二人の子供たちも、自分のことは自分でするようになり、見違えるようにしっかりとしてくる。

 正反対のキャラが入れ替わることで巻き起こるドラマ!

 とりわけ菱子と入れ替わった、様々な場面での星見のセリフが面白く、多いに笑わせてもらいました。

 でも、ただ愉快で面白いという だけではありません。

 自分を変えるのは、難しいこと。敢えてどおしても変えなければならない立場に立たせることで、相手を思いやる心が持てるのだということを教えてくれた作品でした。

 

 

凪良ゆう 流浪の月

 家内更紗の家庭は、ちょっと普通と変わっていた。

 お父さんとお母さんは、外国人の夫婦のようにごく自然にキスをするし、お母さんは、昼間から平気でお酒を飲む。お母さんは料理上手だが、気の向いた時しか作ってくれない。夕飯がアイスクリームの時だってある。

 しかし更紗は両親の愛情を受け、自由で幸せな毎日を送っていた。

 お父さんが亡くなるまでは……。

 お父さんが病気で亡くなり、お母さんは一日中泣いてばかりいて、家の中はしっちゃかめっちゃかになり、床には酒瓶が転がるようになった。

 暫くして、お母さんは新しい恋人を作り、次々に恋人を取り換えた。

 ある日、ちょっと出かけると言って、何番目かの恋人の車に乗り込み、二度と帰って来なかったのである。

 更紗は伯母さんの家に引き取られたが、そこには、孝弘という意地の悪い従兄がいた。世間の型にはまらない、自由な育てられ方をした 更紗を伯母夫婦は持て余し、孝弘は、夜になると更紗の部屋にやって来て、彼女の体を弄ぶ。

 家に帰りたくない更紗は、遊びたくもないのに、学校の帰りは友達と公園で遊び、友達が帰ってからも、一人公園に残り本を読んで過ごすようになる。

 そんなある日、いつものように本を読んでいると雨が降ってきた。

 その時、声をかけてきたのが佐伯文であった。

 文は更紗の同級生達から、ロリコンと呼ばれており、公園で子供たちが遊んでいるのを見る傍ら、更紗と同じようにいつも本を読んでいた。

 「帰らないの?」「帰りたくないの」 「うちにくる?」こうして更紗は文のマンションへついて行く。

 彼は19歳の大学生で、親元を離れて近くのマンションで一人暮らしをしていた。

 育児書を信奉する母に叩き込まれた、様々な「正しさ」を遵守してきた 文であったが、かつての自由さを取り戻した更紗と暮らすことによって、徐々に堕落した生活を送り、それを楽しむようになる。

 始めは伯母の家に帰りたくないからと言う、それだけの理由で、文と暮らし始めた更紗であったが、やがて文の隣こそが自分の居場所、居たい場所になっていく。

 しかし世間から見ればこの状況は、青年による少女の「誘拐」である。

 テレビで事件の報道が始まり、やがて更紗は保護され、文は逮捕される。

 それから15年の月日が流れた。大人になった二人は社会に帰属した人間関係をそれぞれ築いている。

 職場があり、仕事を通じて得た友人 知人がいて、異性のパートナーもいる。

 15年前とは違う状況に置かれた二人であったが、再会を機に互いの距離を縮めていくことになる。

 二人は何も悪いことはしていません。

 ただ、ちょっと普通の家とは違う環境で育った更紗。

 文にしても、大人の女性に恋愛感情を抱けない、少女が好き、というだけです。

 でも別に何も変なことをするわけではありません。興味の対象が少女というだけ、傍で見ているだけでいいのです。

 そんな二人が最後に辿りつた幸せの形とは……。

 愛ではない。でも傍にいたい。

 今まで読んだことのない、新しい人間関係の旅立ちを描いた作品。

 私にそういう関係が、理解できるとはいえませんでしたが、人それぞれ いろいろな人間関係があってもいいのかも知れないな と思いました。

 

垣谷美雨 うちの子が結婚しないので

 福田千賀子 57歳。コンピューターのプログラマーとして、派遣契約で働いている。

 夫は大学の同級生で、証券会社に勤めていたが、現在は通販会社に出向になり、部長職としてそれなりに給料をもらっている。後数年で定年である。

 友人のモリコからの年賀状に「里奈が結婚することになりました」と書いてあり、千賀子は落ち込むことになる。里奈はモリコの娘で、次の誕生日で33歳になる。前にモリコに会った時、「このままいけば里奈は生涯独身かも」なんて言っていたのに……。

 千賀子の一人娘  友美は28歳で独身。大学卒業後、アパレル関連の会社 に勤めているが、正社員とは名ばかりで、入社以来昇給はほとんどなし。残業代も半分くらいしか出ず、毎日疲れきって帰ってくる。彼氏の気配もない。

 自分たち親の死後、友美が孤独な老後を送るのではないか?と心配になった千賀子は、夫の勧めもあり、親同志が子供の代わりに見合いをする「親婚活」に参加することになる。

 しかし、家の格の差で見下すセレブ親や、嫁を家政婦か何かと勘違いしているような年配の親など、現実は厳しい。

 こちらが気に入った相手には断られ、これは無理だという相手には気に入られる、というようになかなか上手くいかない。

 友美は友美で、本人同士の婚活パーティーに参加もするが、もてるのはサクラではないのかと思われる美女ばかり。

 果たして友美は、自分に相応しい伴侶を見つけることができるのか?

 私にもなかなか結婚しない娘がいて、他人事とは思えないストーリーでした。

 私は、最近の男性には、往々にして全体的に男気が足りないように思います。

 夫が一家の大黒柱として、妻子を養うということは、昔なら当たり前のことでした。

 女性が社会に出て働くのは、悪いことではありません。

 でも、妻に働いてほしい、家庭的だけではなく、経済的にも支えてほしい と望むのであれば、自分も妻に協力して家事も育児も半分は負担する覚悟を持つべきです。

 息子の住まいがあまりにも汚いので、嫁を持たさなければダメだと思ったという親。

 しかしその結婚の条件には、「正社員の女性を希望する」とあるのです。

 専業主婦として、家事をきちんとやってほしい というのならわかります。でも、家事をするのは女の仕事、その上正社員として男並みに働け!というのでは、まさに結婚のいいとこ取り をしようとする、ずるい男としかいいようがありません。

 千賀子は思わず相手の母親に「共働きなのに家事は全部うちの娘にやらせる、とおっしゃってるんですよね?うちの娘を過労死させる気ですか?」と怒りを露わにしてしまいますが、娘を持っている母親なら当然の反応と言えるでしょう。

 また、「男女平等だからね」とことあるごとに言って、夫婦別会計にとことんこだわる男もいます。

 「そうはいっても、子供ができたら会社の制度や保育園の事情で勤め続けられないこともあると思うんだよね。私が収入ゼロの時はどうすればいいの?」と友美が尋ねると、相手の男は、「産休中でも給料はもらえるでしょ?もらえなかったら、友美さんの独身時代の預金を取り崩していけばいいんじゃない?」とぬかすのです。

 自分の子供を産んでもらっているのに、その言い草はなんなのでしょう?

 妊娠すれば、初期には悪阻があり、妊娠後期はお腹が大きくなって動きにくく、胃が圧迫されてもたれやすくなります。

 お産の苦しみは言うに及ばずですし、生まれた後は、夜中に何度も授乳をしなければならず、訳もなく夜泣きをすることもあるので、いつも睡眠不足です。

 そんな大事を妻にやらせながら、経済的に面倒をみようとしない男なんて最低というしかありません。「一体誰の子供なんですか?二人の子供なんでしょう?」と言ってやりたい。でもそんな最低男って本当に存在するんです。こんな男に、子供を持つ資格はありません。

 この作品は、最後に友美が自分に合った、この人なら一緒に人生を歩んでいけるであろう と思える男性と出会えたことが救いですが、婚活って難しいですよね。

 やはり結婚はご縁というしかありません。

 お互い高望みをせず、自分に合ったパートナーを見つけることは、大事なことですが、やはり男性にはある程度男気を持って貰いたいものです。

 

 

垣谷美雨 四十歳 未婚出産

 旅行代理店に勤める宮村優子は、部下の水野匠と団体ツアーの下見のために、カンボジアを訪れた。

 日頃のストレスからの解放感からか、異国にいることで感情が高ぶっていたのか?

 自由に闊歩する牛や猿に影響され、暑さで考えがまとまらなくなり、幻想的な月夜に惑わされたからなのか?二人は一夜の間違いを犯してしまう。そして優子は妊娠してしまったのである。

 水野はイケメンの28歳、青木紗絵という美しい恋人がいる。優子は40歳目前である。

 とても彼との結婚など考えられない。しかし、年齢から考えてもこれが子供を産む最後のチャンスではないかと思うと、堕ろす決心がつかない。

 彼女の実家は田舎で、普通と違うことにはまだまだ偏見があり、未婚の母など とても認めてくれるとは思えない。

 会社で、周りにいるのは、パワハラ上司や不妊治療に悩む同僚など、誰にも相談できない。

 横浜に住む姉の真知子に打ち明けると、お腹の子供の父親には、なんとしても真実を告げるべきだと言う。

 彼女が妊娠しているという噂を聞きつけた水野に「まさか俺の子じゃないですよね?」と尋ねられ、優子はお腹の子の父親は、高校の同級生だと嘘をつく。

 そして、あくまで例えばの話のように、いたずらっぽく「もしも水野君の子供だったら、どうした?」と聞いてみると、水野は「土下座は避けられませんね。堕ろしてもらうためなら何でもします」と言う。その上、「流産させます」とも。

 階段から妊婦を突き落とす 昔の映画を思い出した と言うのである。

 彼の残忍そうな横顔を見つめた時、優子は絶対に彼に真実を打ち明けることは出来ないと思うのであった。

 静岡に住む 優子の兄の宏伸は、一度結婚に失敗していた。仕事一途で家庭を顧みなかったことが原因である。しかし今は、未亡人で子連れのブラジル人の恋人がいることがわかる。

 優子の同級生の成瀬昌代は、黒人と結婚して子連れで帰省した。田舎の偏見にも立ち向かって堂々と生きていくつもりのようだ。

 高校時代の同級生で、お寺の住職である近藤凡庸は、優子の子供の戸籍上の父親になってもいい と言ってくれた。

 職場でも妊娠を知られて、居心地悪い雰囲気であったが、数少ない子持ちの女性社員の励ましなどもあり、優子はシングルマザーになることに徐々に自信をつけてゆく。

 もし私が優子の立場であったなら、やはり水野に真実を告げると思います。仮に産むにしても、堕ろすにしても……。

 結婚出来なくても、子供の認知をしてもらえなくても、姉 真知子の言うように彼だけが苦しまず、能天気に生きてゆくことなど許せません。水野も優子と同じように悩み、苦しむべきだと思うからです。

 ただ、水野のように利己的で薄情な男が父親なら、いっそいない方が子供のためかもしれませんが……。

 同じシングルマザーであっても、結婚した後、離婚してそうなるなら仕方ない。でも未婚の母というのは、今の日本ではまだまだ険しい道だと言えるでしょう。

 優子の選択が正しかったのかどうかは、わかりません。でも、子供を産んだことによって彼女が強くなったのは確かだと思います。

 そして未来に希望を持つことができたのも確かでしょう。

 様々な女性が自分に合った選択をし、生きて行ける世の中になってほしいものですね。

 

 

垣谷美雨 ニュータウンは黄昏れて

 バブル崩壊の直前、東京郊外に4LDKの分譲団地を購入した織部家。

 20年以上近く経つ今もローンを抱え、織部頼子は節約に必死である。

 頼子の夫は、技術革新から取り残されてコンピューター会社の管理職から平社員に格下げされ、収入は激減した。会社を辞めたくても住宅ローンが残っているため辞めることが出来ない。

 団地は建て替えが必要な時期が来ているのに、費用も捻出できず、家を売って住み替えようにも住宅価格が下落して売ることも出来ない。まさに八方ふさがりである。

 娘の琴里は、27歳のフリーター。大学を卒業し、入社直前に内定先の食品会社が倒産してしまった。教育ローンの返済をしながら、持ち帰り寿司店でアルバイトを続ける日々である。教育ローンを組んだのも、入学前に父の会社が傾いて、給料が激減してしまった為である。就職活動は続けているものの、先行きは暗い。

 中学時代、家が近くで同じコーラス部、琴里と仲のよかった三人組のひとりである朋美は、大学院に進学し、もうひとりの三起子は、中堅商社に就職した。

 友人達に劣等感が募る琴里であった。

 そんなある日、琴里は久しぶりに会った三起子に、イケメンで資産家の彼氏 黛環を紹介される。

 三起子は琴里にオペラのチケットを渡し、法事で行けなくなった自分の代わりに彼と一緒にとオペラに行ってほしいと頼む。

 だが、三起子はその後失踪し、いつしか琴里が黛と付き合うことになる。

  東京の一等地に先祖代々引き継ぐ貸しビルやマンションを持ち、家賃収入で生活している、黛環と結婚することは、琴里にとって起死回生の脱出策となるはずであった。

 しかし黛という男の実態は……。

   琴里は、三起子が何故自分に黛を紹介した後、失踪したのかを後に知ることになり、愕然とする。そしてその時琴里のとった行動とは?

 この作品の背景にあるのは、戦後の中流のライフスタイルを支えてきた土地神話と終身雇用の崩壊である。

 ニュータウンは、高度成長期に地方から東京に流れ込んだ大量の働き手たちを吸収し、東京郊外に続々と生まれた。

 これを支えたのが、定年まで雇用を保障する終身雇用と、勤続年数によって賃金が上がる年功賃金。不動産は必ず値上がりするという土地神話である。

 バブル崩壊によって、中流サラリーマンの生活設計は、完全に狂ってしまった。必死で手に入れた郊外住宅も、実質は資金を借りた銀行のものだったいう現実に、頼子たちは直面することになったのである。

 琴里の世代には、頼子のような中流の夢さえない。正社員就職に失敗した琴里は、フリーター。低賃金に教育ローンの返済がのしかかる日々である。

 親世代の貧困も進み、奨学金を借りないと大学にいけない若者が大幅に増えている。利子付きの奨学金の拡大もあって、卒業時に数百万の借金を抱える学生も目立つ。

 非正規雇用の働き方が広がったため、いまや高卒の半分近くが非正規社員となり、大学を出なければ正社員へ道は極めて厳しい。だから無理をしてローンを組んでも、皆大学に行こうとするのである。

 私の友人にもバブルの頂点で家を買ったという人がいます。

 ただ彼女のご主人は、一流企業に勤めていたこともあり、彼女の独身時代の預金を繰り上げ返済に充てたり、子供がいなかったこともあって、それほど困らずローンを返済できたようです。

 それでも彼女たちが返済したローンの総額には、びっくりさせられました。

 バブル期の土地の値段は、本当に異常でしたよね。

 お金はあって越したことはありません。

 しかしどんなにお金があっても、やはりそれだけで幸せになれるわけではない と言うのもこの作品のテーマです。

 また、幸せは人と比べて優劣をつけるものでもありません。

 琴里、友人の三起子、そして朋美、三者三様それぞれの生き方があり、一概に誰が幸せとは言えません。自分が納得できる生き方、それが正解と言えるのでしょうね。

垣谷美雨 女たちの避難所

 東日本大震災が起こった日、九死に一生を得た椿原福子は、津波から助けた少年 昌也を連れて避難所に向かった。

 乳飲み子を抱えた漆山遠乃は、舅 義兄と共に。

 息子とはぐれたシングルマザーの山野渚は、避難所で息子 昌也と出会うことが出来た。

 しかしそこは、『絆』を盾にダンボールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑が蔓延り、人目を惹く美しい遠乃は好奇の目に晒され、授乳もままならなかった。

 思いやりがあり、いつも遠乃を励ましてくれた優しい夫は亡くなり、生き残った舅は、頑固で意地が悪く横暴である。津波に飲まれて妻が亡くなったのを、遠乃のせいにして、彼女を責め立てる。 

 また、好色で堪え性がない独身の義兄は、弟が死んだのをこれ幸いと、美しい義妹と結婚しようとしている。

 福子の夫も怠け者でマザコン、何の仕事をしても長続きせず、見栄っ張りでプライドばかり高く、周囲の人間を見下しては陰口ばかり叩いていた。

 「いっそ死んでくれていたらどんなにいいだろう!」という福子の願いも天には届かず、夫は生きていた。そして愚かにも義援金BMWを買ってしまったのである。

 また、渚は夫のDVに耐えかねて離婚した。

 母親が田畑を売って、港の飲み屋街に買ってくれた空き店舗で、母親と一緒に小料理屋を開いた。夜はスナックにして、口うるさい田舎の人たちの噂や好奇な目に耐えながら、なんとか頑張ってやって来た。

 しかし、優しかった母は逃げ遅れて亡くなった。店は流され、これから息子と二人で生きていかなければならない。

 やがて虐げられて来た、3人の女性たちは立ち上がる。福子の息子夫婦の協力を得て東京で共同生活を送ることに……。

 不安を抱えながらも、3人それぞれ仕事を持ち、明るい未来が見えてくる。

 垣谷さんの作品には、どうしようもないダメ男がしばしば登場します。そんな男たちの自分勝手なせりふを聞いていると、憎らしくて殴りつけてやりたくなります。

 でも、そんなダメ男たちに虐げられ、我慢し続けて来た女性たちの堪忍袋の緒が切れる時、それは思いもかけないパワーを生むことになるのです。

 今回の作品も主人公たちと一緒に、ハラハラしたり、憤ったり、大変面白く読むことが出来ました。未来に希望が持てるラストいいですね。