マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

垣谷美雨 夫のカノジョ

 今までいろいろと垣谷さんの作品を読んできましたが、一番大笑いしてしまった作品かもしれません。

 小松原菱子は、2LDK+S、58平米のマンションに、夫と中3の娘、小5の息子の4人で暮らしているおり、彼女の目下最大の目標は、手狭になったマンションの買い替えである。

 夫が前夜パソコンで検索していた、マンションの物件情報を見てみようと、履歴ボタンをクリックすると、ずらりと並んだ不動産関係のサイトの中、菱子は一つだけ異質のサイトを見つける。「星見のひとりごと」何だろう、これ?

 思わずアクセスすると、それは若い女の子のブログだった。

 「ムギのバカヤロー」の文字。えっ?「ムギ」?これってもしや夫の麦太郎のこと?

 読めば読むほど「ムギ」が麦太郎であることが明らかになってくる。

 もやもやしたものを抱えたまま迎えた、翌土曜日の朝、休日出勤だと言って家を出た夫を、菱子は尾行する。

 夫は見知らぬ駅で降り、小さなマンションに入って行ったのだ。

 その後、マンションから夫と浮気相手と見られる若い女が出て来る。

 スーパーで買い物を済ませた二人に、一人の青年が声をかけ、三人でマンションに入っていく姿を見た菱子は、夫が頻繁に相手の元に通っている為、住人とも顔見知りなのだと思い込む。

 悶々とした想いを抱えて、家事もパートの仕事も疎かになりがちな菱子は、相手の女性のもとに電話を入れ、会いたいと告げる。

 これ以上主人と関わらないで欲しい と言う菱子に、相手の女性 山岸星見は、一生懸命なのはムギの方なので、断れないと言うのだ。

 「人を弄ぶのはやめなさい!」と菱子が大声を出した時、背後から現れたのは、真っ赤なロングドレスを着たババア、ホームレスかと思うような薄汚れた老婆だった。

 「物事はなんでん相手ん立場ん立って考えてみることが大切ばい」

 そして老婆が、ショールを左右に振り始め、「えいやっ!」と気合を発すると、なんと菱子と星見 二人の身体が入れ替わってしまったのである。

 「相手の気持ちば芯までわかったら元に戻るけん」という言葉を残し、老婆は消え去ってしまう。

 ここから、菱子は星見として、星見は菱子として暮らさなければならなくなり、どんどん話が面白くなっていく。

 星見は、夫の勤める会社で働く派遣社員である。

 元ヤンキーの星見は、常識を知らず言葉遣いもひどい。でも彼女の生い立ちは、不幸としか言いようがなかった。3歳の時に父親が事故死をして母子家庭だったため、星見はずっと一人ぼっちだった。中学の時には、母親が男を作って家に帰って来なくなり、今でも母親から金の無心をされている。そんな彼女が自立して一人で生きていくのは、並大抵の苦労ではなかったはずである。そんな星見の立場を、菱子は徐々に理解していくのであった。

 また、夫麦太郎の会社での立場や仕事の大変さも、菱子は身近で感じるようになる。

 星見は星見で、主婦としては全く落第ではあるが、歯に衣を着せない率直な彼女の意見が、周囲を救い、共感を得るようになる。

 今まで過保護に育てられてきた、菱子の二人の子供たちも、自分のことは自分でするようになり、見違えるようにしっかりとしてくる。

 正反対のキャラが入れ替わることで巻き起こるドラマ!

 とりわけ菱子と入れ替わった、様々な場面での星見のセリフが面白く、多いに笑わせてもらいました。

 でも、ただ愉快で面白いという だけではありません。

 自分を変えるのは、難しいこと。敢えてどおしても変えなければならない立場に立たせることで、相手を思いやる心が持てるのだということを教えてくれた作品でした。