凪良ゆう 流浪の月
家内更紗の家庭は、ちょっと普通と変わっていた。
お父さんとお母さんは、外国人の夫婦のようにごく自然にキスをするし、お母さんは、昼間から平気でお酒を飲む。お母さんは料理上手だが、気の向いた時しか作ってくれない。夕飯がアイスクリームの時だってある。
しかし更紗は両親の愛情を受け、自由で幸せな毎日を送っていた。
お父さんが亡くなるまでは……。
お父さんが病気で亡くなり、お母さんは一日中泣いてばかりいて、家の中はしっちゃかめっちゃかになり、床には酒瓶が転がるようになった。
暫くして、お母さんは新しい恋人を作り、次々に恋人を取り換えた。
ある日、ちょっと出かけると言って、何番目かの恋人の車に乗り込み、二度と帰って来なかったのである。
更紗は伯母さんの家に引き取られたが、そこには、孝弘という意地の悪い従兄がいた。世間の型にはまらない、自由な育てられ方をした 更紗を伯母夫婦は持て余し、孝弘は、夜になると更紗の部屋にやって来て、彼女の体を弄ぶ。
家に帰りたくない更紗は、遊びたくもないのに、学校の帰りは友達と公園で遊び、友達が帰ってからも、一人公園に残り本を読んで過ごすようになる。
そんなある日、いつものように本を読んでいると雨が降ってきた。
その時、声をかけてきたのが佐伯文であった。
文は更紗の同級生達から、ロリコンと呼ばれており、公園で子供たちが遊んでいるのを見る傍ら、更紗と同じようにいつも本を読んでいた。
「帰らないの?」「帰りたくないの」 「うちにくる?」こうして更紗は文のマンションへついて行く。
彼は19歳の大学生で、親元を離れて近くのマンションで一人暮らしをしていた。
育児書を信奉する母に叩き込まれた、様々な「正しさ」を遵守してきた 文であったが、かつての自由さを取り戻した更紗と暮らすことによって、徐々に堕落した生活を送り、それを楽しむようになる。
始めは伯母の家に帰りたくないからと言う、それだけの理由で、文と暮らし始めた更紗であったが、やがて文の隣こそが自分の居場所、居たい場所になっていく。
しかし世間から見ればこの状況は、青年による少女の「誘拐」である。
テレビで事件の報道が始まり、やがて更紗は保護され、文は逮捕される。
それから15年の月日が流れた。大人になった二人は社会に帰属した人間関係をそれぞれ築いている。
職場があり、仕事を通じて得た友人 知人がいて、異性のパートナーもいる。
15年前とは違う状況に置かれた二人であったが、再会を機に互いの距離を縮めていくことになる。
二人は何も悪いことはしていません。
ただ、ちょっと普通の家とは違う環境で育った更紗。
文にしても、大人の女性に恋愛感情を抱けない、少女が好き、というだけです。
でも別に何も変なことをするわけではありません。興味の対象が少女というだけ、傍で見ているだけでいいのです。
そんな二人が最後に辿りつた幸せの形とは……。
愛ではない。でも傍にいたい。
今まで読んだことのない、新しい人間関係の旅立ちを描いた作品。
私にそういう関係が、理解できるとはいえませんでしたが、人それぞれ いろいろな人間関係があってもいいのかも知れないな と思いました。