マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

西條奈加 千両かざり

 百年の伝統ある 錺職「椋屋」(むくや)では、四代目春仙こと宇一が、30代半ばで死の床についていた。

 椋屋の娘で宇一の義妹のお凛は、椋屋を切り盛りする傍ら、女だてらに密かに錺細工の修行をしていた。

 宇一の死後、公開された遺言により、お凛は3年後に五代目春仙を決める役目を負わされることになる。宇一の願いで、お凛が店に向かい入れた 時蔵という謎の男も、他の職人たちに混じって、跡目争いの候補である。

 時蔵は、〈平戸〉という独自の技術を持つ天才肌の職人であるが、尊大で周囲にうちとけようとせず、細工場の空気は悪くなっていく。

 お凛は、なんとか職人たちがうまくやって行けるよう気を配るが、時蔵に振り回されることになる。しかし彼の突出した技に惹かれ、自分の作品に彼の技を取り入れようと試みるのであった。

 椋屋と深い関係にある小間物問屋「生駒屋」の娘お千賀は、お凛の細工を高く評価しており、やがて時蔵もお凛の才能に気づき、二人の関係は微妙に近づいていく。

 だが、時代は天保の改革に突入。贅沢品が禁止され、椋屋も生駒屋も商いが難渋することになる。

 そんな時、生駒屋の主人の広左衛門とお千賀が、とんでもない大仕事を持ち込んできた。御禁令に触れることを怖れながらも、椋屋の職人は一丸となって、江戸の町に活気を与えたいと、一世一代の仕事に挑むのであったが……。

 さて、椋屋と生駒屋の心意気は江戸庶民に通じるのか?

 果たして五代目を継ぐのは誰なのか?

 初めは、なんて嫌な奴なんだろうと思いながらも、時蔵の技と一途な職人気質に惹かれてゆくお凛。娘心は複雑です。自分に好意を持ち、優しくてくれる男性は他にもいるのに……。尊敬は愛に変わるものなのかも知れません。

 最後はハッピーエンドとはいかず、切ない気持ちになるのですが、時蔵の技はきっと受け継がれてゆくであろうと、明るい未来を予感させるラストでした。

 職人世界の粋と人情を描いた時代劇。

 天保の改革や伝統工芸の世界など、いろいろ調べて書かれたことがよく分り、教えられることも多い作品でした。