西條奈加 上野池之端 鱗や繁盛記
騙されて江戸に来た13歳の少女 お末の奉公先「鱗や」は、料理茶屋とは名ばかりの、いわば連れ込み宿だった。
好色で、寄合と称しては妾のもとに出かけて行く主人 宗兵衛。
内儀のお日出や娘のお鶴は、高価な買い物や芝居見物にうつつを抜かしている。
その上彼女達は、思いやりというものがまるでなく、お鶴は酷いやきもち焼きである。
奉公人たちも皆やる気がなく、この店には、意地悪・怠惰 ・無気力・嫉妬・諦めなどの負の感情が充満していた。
その中で、娘婿の八十八朗(若旦那)だけは、明るく、正義を実践して、先輩たちに苛められ、何度もピンチに陥るお末を助けてくれるのであった。
そもそも昔、鱗やはこんな店ではなかった。先代の板長と女将が亡くなって、今の主人の代になると、主だった板前や気の利いた女中は、早々に見切りをつけて出ていってしまったのである。
名店と呼ばれた昔を取り戻すため、若旦那とお末の奮闘が始まる。
ところが、鱗やの名声が高まるのと反比例するかのように、八十八朗の明るさが陰ってゆく。
お末も、若旦那に何か秘密があると気づいてからは、なかなか以前のような気持ちで彼に接することができない。
20年ほど前、水戸にあった鱗や本店は火事で焼け、主人夫婦と息子が焼け死んだ。
そして、江戸池之端の支店 鱗やの若い主人夫婦も、相次いで不幸な死に方をした。
しかし、それは単に不幸な偶然ではなかったのである。
八十八朗は、本店鱗やと どう関わっていたのか?20年前の恐ろしい過去が明らかになってゆく。
時代劇ミステリとして、ストーリーを楽しむだけでなく、江戸の料理通がどんな料理を食べていたのかが書かれていて、とても興味深く読むことができました。
「わあっ!これ食べてみたい」と思わせるような料理も沢山出てきます。
最後に悪は罰せられ、爽やかな結末になっているのもいいですね。
江戸時代の庶民の声が聞こえてくるような 生き生きとした作品でした。