マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

伊岡瞬 不審者

 折尾里佳子は、食品会社に勤めている夫の秀嗣、5歳の息子 洸太、姑の治子と暮らしながら、自宅でフリーの校正 校閲の仕事をしている。

 夫の秀嗣は呑気でデリカシーを欠く面もあり、姑の治子は気が強い上、高齢ということもあって記憶が覚束ないことがある。最近では階段から落ちて、2回も救急車を呼ぶ羽目になった。

 とは言え、里佳子を取り巻く日常は、おおむね平穏と言っていい。

 そんなある日、里佳子は幼稚園の先生から、見知らぬ男に洸太が話しかけられていたと聞く。

 折しも、近隣では押し込み強盗事件や、首を切られたハムスターの死骸や魚の内臓が個人宅に投げ込まれる事件が立て続けに起こっていた。

 間もなく秀嗣が、21年前から音信不通だった 兄の片柳雄平を家に連れて来る。

 兄弟で苗字が違うのは、両親が離婚したためであって、雄平は最近クラウドファンディングの会社を立ち上げたという。洸太に話しかけた男は、雄平だったのだ。

 母親の治子は「雄平はこんな顔じゃない」と言うのだが、秀嗣は生き別れの兄と打ち解け、雄平は折尾家にで出入りするようになる。

 洸太も彼になつき、治子さえも彼に気を許すようになって、やがて雄平は居候同然になってしまう。

 雄平の言動がいちいち気になり、警戒心を捨てきれない里佳子は、精神的な孤立を深めて行く。

 そして彼女の身辺では、校正したゲラが一部が紛失するなど、不可解な出来事が起き始めて……。

 里佳子の父親 潔は、酒好きではあるがあまり強い方ではなく、典型的に酒に飲まれるタイプであった。性格が変わって理不尽なことで怒り出し、暴力をふるう。それでいて外ではおとなしい。素面の時は別人なのだ。そんな父に母は逆らうことができない。

 13年前、里佳子が20歳の専門学校生の時、潔は失踪した。数日前まで大雨が続いていたのに、釣りに行くと言って荒川行きつけの河川敷に向かい、帰って来なかったのだ。

 また、里佳子の3歳年上の姉 木乃実は、短大卒業後家を出ていたが、彼女も6年前に水死したのである。 

 複雑な過去を背負って生きてきた里佳子。

 そんな里佳子をいたぶるように、雄平の態度は変化し、大胆に図々しくなっていく。

 雄平に消えて貰いたい!その一心で里佳子のとった行動は?

 そして最後には、思いもよらない結末が待っています。

 えっ!こんなどんでん返しだったのか!とただもうびっくりでした。

 幼い頃に受けた傷は、一生消えないものなのか?

 邪魔なものを排除することでしか、自分の幸せを守ることが出来ない と思って生きて来た里佳子が不憫でもあり、恐ろしくもあります。

 伊岡瞬 久しぶりに読みましたが、じわじわと迫ってくる恐怖を描く達人ですね。

 また、校正の仕事の内容が詳しく説明されていて、興味深かったです。

 途中でやめられなくなる面白い作品でした。