マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

垣谷美雨 70歳死亡法案、可決

 高齢者が国民の3割を超え、破綻寸前の日本政府は、「70歳死亡法案」を強行採決。施行まで後2年である。

 宝田東洋子は、15年間我儘放題の姑の介護に追われて来た。姑は現在84歳である。

 「後2年でお義母さんから解放される」と東洋子は喜ばずにはいられなかった。

 夫は仕事があるからと介護を手伝おうとせず、娘は家を出て、実家に寄り付かない。

 一流大学を出て、大手銀行に就職したにもかかわらず、人間関係につまづき、わずか3年で退職してしまった長男は、引きこもり状態である。

 夫の姉妹は、忙しいからと何一つ介護を手伝おうとせず、そのくせたまにやって来ては、姑に対する優しさが足りないと東洋子に文句をつける。

 そんなある日、夫が定年を待たずに会社を辞めると言い出した。

 70歳まで後12年しか生きられないのだから、その時間を有効に使いたいと言う。

 母親との時間を大切にしたいのか?息子とも真剣に向き合ってくれるのか?

 介護も手伝ってくれるつもりなのか?東洋子が喜んだのも束の間、なんと夫は能天気にも、友人と世界旅行に行くと言い出したのだ。

 そして、夫が旅行に出かけてしまってから、友人の藍子に会った東洋子は、彼女から「如何に東洋子の家族が皆自分勝手であり、東洋子一人犠牲になる必要はないのだ」と きつく言われる。藍子の言葉に押されて東洋子は家を出てしまう。

 安アパートを借り、上野駅構内の駅弁売り場で働くことになる。幸い人間関係にも恵まれ、やりがいを感じるようになる。

 そして、東洋子が家を出たことで、家族も東洋子の苦労を知ることになり、皆がそれぞれ自分の出来ることで協力し、姑のもよい方向へ向かうことに……。

 介護は本当に大変です。私は姑の下の世話をしたのが半年ほどですし、一日数時間でも家政婦に来てもらうことができましたので、長い間一人で介護をし続けている方々に比べれば恵まれていた方かもしれません。それでも先の見えない自由のない生活は、毎日頭の上に暗雲がかかっているような辛い日々でした。

 それに姑の認知が進み、トイレに行くことが出来なくなる前も、何年もの間、姑についてあちこち病院通いをしましたし、柔らかいものしか食べられなくなってからは、食事も姑のものは、別に作らなくてはならなくなりました。

 耳がどんどん遠くなって、勘違いや思い込みが増えて、正しく理解させるのにとても時間がかかりました。

 70歳では確かに早すぎると思いますが、80代後半になったら、安楽死をする権利があってもいいよね と友達と話したことがあります。

 また、解説にも「介護は他人に任せるべきだ、家族で引き受けようとするから、無理が生じる」とありました。

 「赤の他人なら介護されている本人も気を使わないといけない。だからいいのだ」と。

 私もそう思います。介護はプロに任せ、家族は時々会いに行くのが一番ベストだと思うのです。

 衝撃的な題材ですが、身近に感じる話でもあり、作者の文体もあって重苦しくなっていないのがいいですね。

 垣谷さん 面白い作品をいろいろ書いてくれるなあと思いました。