瀬戸内寂聴 夏の終り
「夏の終り」は4っの連作とみられる短編と、独立した「雉子」(キギス)という短編からなる著者の私小説です。
不遇な作家 慎吾は、妻子と染色を仕事にする経済力のある愛人 知子との間を規則正しく往復する生活を8年間も続けている。
そこに知子のかつての恋人 涼太が現れ、知子は涼太と再び関係を持つことになる。
慎吾と別れなければと思いながらもなかなか踏ん切りがつかない知子。なんとも奇妙な四角関係である。
「雉子」は、夫と娘を捨て、若い男のもとに走った牧子の話。何もかも捨てて走った青年との恋の結末は、あっけなく惨めなものであった。
そして牧子には、今妻子ある久慈という愛人がいる。
牧子が捨てた娘の名は理恵、久慈の娘もりえという名前。牧子はりえの欲しがりそうなものを次々と久慈にことづけるようになる。これも常識では考えられない奇妙な関係である。
女の業に苦悩しながらも、一途に独自の愛を生きてゆく主人公。
奔放ではあるが、打算のない一途な愛を見るようで、不道徳で非常識であるのは分かっていても、何故か憎めません。
別にこういった生き方を肯定するわけではありませんが、波乱に富んだ人生を送られたからこそ、人に対する優しさと寛大さを、後に寂聴さんは身につけることができたのかも知れませんね。