マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

伊岡瞬 瑠璃の雫

 母と弟の三人暮らしの小学6年生 杉原美緒は複雑な家庭環境で育った。

 父親は自分たちを捨てて新たな家族を作り、母親は重度のアルコール依存症で、入退院を繰り返している。母の従妹で喫茶店 「ローズ」を経営する、吉岡薫の支えによって何とか生活を維持しているようなものだ。

 家庭不和の原因は、3年前、3歳下の充がベビーベッドで寝ていた10か月の末の弟 穣を押し付けて窒息死させてしまった、という悲劇であった。

 幼かった充に当時の記憶はなく、何事もなかったかのように無邪気に振る舞う彼を、美緒は疎ましく思い、殺意すら覚えて充を邪険に扱う。

 夏休みのある日、美緒と充が「ローズ」にいると、杖をついた初老の男性が現れる。

 彼は永瀬丈太郎という名の常連客で、元検事。不自由な体で、広い屋敷に一人で住んでいる。

 ペーパークラフトを趣味にしている永瀬に、薫は充にペーパークラフトを教えてやって欲しい と頼み、自分は美緒と一緒に屋敷の掃除をすると申し出る。

 屋敷に通う日々が続く中で、美緒は永瀬の人柄に触れ、頑なに閉ざしていた心を少しづつ開いてゆく。

 そんな永瀬にも辛い過去があった。彼がかつて長野地検松本支部に在籍中、幼い彼の一人娘 瑠璃が誘拐され、迷宮入りになっていたのである。

 物語は、美緒と永瀬の出会いと心の触れ合いを描く第一部、瑠璃の誘拐事件を描く第二部、そして美緒と永瀬 それぞれの抱えていた《謎》が明らかになる第三部という構成になっています。

 身勝手な両親のために犠牲となった美緒と充。

 自分の利益しか考えない大人たちの犠牲になって、幼くして命を堕とした瑠璃。

 哀しい真実に何とも切ない気持ちになります。

 でも、美緒も充も人を恨むより忘れることを選択した。許すことは出来なくても忘れることは出来ると……。それがこの作品の救いなのかもしれません。

 伊岡瞬 久しぶりに読みましたが、やはり面白い!読み応えがある作品でした。