宇佐美まこと 熟れた月
宇佐美まこと の作品を初めて読みました。
物語は、弥生という女性が男を刺す場面から始まる。男が倒れていて、自分の手には包丁がある。どうしてこんなことになってしまったのか、その事情が短く語られるが、真相には触れていない。
場面が変わって、ファミリーレストランでバイトする女子高生 平野結の視点で話は進行する。
そのファミレスで、彼女が憧れる高校の先輩、阿久津佑太の母親が男としばしば会っているのを結は目撃してしまう。なんだか不穏な雰囲気で、男が佑太の母親を脅しているように見える。
ある日、一人でやって来た佑太の母親は、げっそりとやつれ、目は腫れぼったい。
公衆電話から短い電話をかけると、テーブルに突っ伏し、トイレから長い間出て来なかった。飲み物にも手をつけず、出て行こうとした彼女に、結は忘れ物のハンカチを渡そうと彼女を追いかける。
「阿久津先輩のお母さんでしょう?」と確認した結に、阿久津の母親は、佑太に伝えてほしいと頼む。
「ウーピーパーピーの木の下に埋めた。そこに埋めたら、何もなかったことになる。初めっからやり直せる。すべてうまくいく」と
意味はわからないものの、結は佑太に伝言を伝えようとするのだが、桜並木の続く土手道で待っていると、柏木リョウ という少年が現れて、「もう君は阿久津に会えないんだ」と言われる。土手への道を急ぐあまり、横断歩道のない道を渡る時に、トラックにはねられ、結は命を堕としたのであった。
何故死んだはずの結に意識が残っていたのか?
この柏木リョウという少年も、結がそれまで度々相談に乗ってもらっていた、メル友のKENという謎の人物も、後のストーリーに大きく関わってくる。
癌で余命宣告されたヤミ金業のマキ子。
借金が嵩んで首が回らなくなり、顧客の金を使い込みんで銀行を懲戒解雇され、今はマキ子に拾われて取り立て屋をしている乾。
生まれてから車椅子の生活しか知らない身体の不自由な博。
過酷な人生を生きて来たそれぞれの人達の運命が絡み合った時に、どんな変化が生まれるのか?
最初の場面が、後の展開とどう繋がってゆくのか が非常面白く、スリリングで、一気に読んでしまいました。
面白い作品を書く、まだまだ読んだことのない作家が沢山いるのだなあ とあらためて実感しました。