マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

月村了衛 欺す衆生(だますしゅじょう)

 月村了衛の作品を初めて読みました。

 横田商事に数ヶ月前に入社した隠岐隆は、会長の様子を見て来いと上司に命じられたばかりに、会長が刺殺される場面に遭遇してしまう。

 横田商事が悪辣な詐欺商法を働いていると知りながら、30万円の固定給と10パーセントの歩合に惹かれて入社してしまった自分が悪いのだ。

 地方の国立大学を出て、堅実な地元企業に就職し、取引先の事務員であった淑子と結婚した。

 平凡でも幸せな生活がずっと続くと信じていた隠岐であったが、淑子の叔父に騙され、必ず返すからと消費者金融から金を借りさせられて、その金を持ち逃げされてしまう。過酷な取り立ては勤め先にもやって来て、隠岐は退職せざるを得なくなる。

 そしてやむなく入社した横田商事は、被害総額2千億円に上る戦後最大の詐欺事件を起こし、その悪質さは、他に類を見なかった。大勢の老人が老後の資金を騙し取られたが、その莫大な収益の行方は未解明のままである。

 それから5年、文具メーカーに再就職し、うだつの上がらない隠岐の前に、同じく元横田商事の因幡充が現れる。因幡隠岐にパートナーとして一緒にビジネスをやろうと持ち掛ける。全うなビジネスではない。詐欺である。

 断ろうとする隠岐に、因幡隠岐が元横田商事社員であると周囲にばらすと脅す。

 他に選択肢のない隠岐は、妻子に内緒で会社を辞め、因幡と行動を共にする。

 原野商法から海外ファンドまで、隠岐因幡は様々な詐欺の手法を考え、実行してゆく。悪事に手を染めることに、隠岐は戸惑いを感じながらも、次第に才能を開花させてゆく。

 二人の成功を嗅ぎつけ、経済ヤクザの蒲生が近づいて来て、彼の属する暴力団とも付き合わざるを得なくなる。また因幡は、横田商事の元社員を次々と入社させるが、それが内部分裂を生むことになり、更なる強欲な悪人を呼び寄せることにもなる。

 隠岐の願いは、妻や二人の娘たちとの温かく幸せな家庭生活であったが、暮らしは豊かにになっても、忙しさにかまけて、娘たちの教育や家族のことをおろそかにしてきた隠岐に妻や娘たちの態度は冷たい。

 たまに早く帰っても、誰も彼と話そうともせず、家は冷え冷えとしている。

 そして今度は、隠岐の長女が結婚詐欺の被害に遭うはめに………。

 隠岐が行き着いた先に見えるのは、光明か地獄か?

 700ページを超える長編でしたが、ほとんど一日で読んでしまいました。

 まさに、読みだしたら止まらない、ページを捲る手が止まらない作品でした。

 詐欺が悪事であることに違いありませんが、隠岐は横田商事の教訓から、年寄りのなけなしの老後資金や一般の人たちのわずかな貯金をかすめ取るような真似はしません。

 ターゲットはあくまで金持ち、それも欲の皮の突っ張った資産家で、金があるのにもっともっと設けてやろうとする人間ばかりです。

 彼の仕事の仕方は慎重で、なかなか尻尾を表さない巧妙さもあります。

 もし、妻の叔父に騙されなかったら、隠岐は悪に手を染めることもなかったでしょうし、詐欺師であっても何故か応援したくなってしまいます。

 また、隠岐のおかげで贅沢に好き勝手に暮らしているにもかかわらず、隠岐に対して少しも感謝もせず、優しい言葉をかけようとしない家族にも腹が立ちます。

 最後にはすべてが解決し、一見ハッピーエンドのようでもありますが、これで本当によいのか?これで幸せと言えるのか?と問われるようなラストでした。

 しかし、何はともあれ やあー、面白かった!