マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

内館牧子 終わった人

 田代壮介は、東大法学部を卒業後、大手万邦銀行に入り、出世コースを歩んで来た。 

 しかし、彼を高く評価してくれていた役員が、経営会議から外れた為か、新役員になることが出来ず、49歳の時 子会社に出向、転籍させられ、そのまま63歳で定年を迎えた。

 今まで仕事一筋、趣味もろくに持たなかった壮介は暇を持て余す。

 一方、妻の千草は、お嬢さん育ちでずっと専業主婦であったが、43歳の時にヘアメイクの専門学校に行き始め、国家試験をパスして、目黒の小さな美容室で働いている。

 壮介が旅行に誘っても、千草は忙しいからとあまり乗り気ではない。

 壮介はスポーツジムに通ったり、論文を書いて大学院を目指そう などと考えて、カルチャースクール通ったりする。

 カルチャースクールの受け付けの女性に恋心を抱いて、食事に誘ったりもするが、本当の意味での居場所を見つけることが出来ない。

 そんなある日、同じジムに通う鈴木から、自分の経営する会社(ゴールドツリー)の顧問になってほしいと頼まれる。週3日出社するだけで、年収800万円と60代としてはかなり恵まれた待遇である。

 ゴールドツリーは小さな会社ではあるが、地道な経営ぶりで、業績はまずまずである。壮介は水を得た魚のように活き活きと働き始める。

 しかし暫くして、社長の鈴木が急な病で倒れ、39歳という若さであっけなく逝ってしまう。そして、壮介は会社の幹部達から、社長に就任してほしいと頼まれる。

 不安はあるものの、社長を引き受けたい壮介。しかしそこには、大きな落とし穴が待ち受けていたのである。

 長い間働き続けてきたのだから、定年後は好きなことをすればよいのにと思います。

 趣味や勉強、ボランティアなどにも、生き甲斐を見つけることは出来るだろう と私は思ってしまうのですが、そうは出来ない人はいるのですね。

 確かに今の60代は、昔と違ってまだまだ元気ですので、今まで仕事だけが生き甲斐だった人に、急に趣味を楽しんで隠居のように暮らせ!と言っても、それは難しいのかもしれません。

 第一線から離れ、人から必要とされなくなることに寂しさを覚え、あがかずにはいられない初老男性の悲哀。

 こういう人って結構沢山いるのかも知れないなあ と思いながら読んで、少し切なくなりました。