望月諒子 蟻の棲家
望月諒子という作家は知りませんでしたが、なかなか迫力のある作品だなあ とおもいました。
東京都中野区で、射殺された、若い女性の遺体が相次いで発見された。
フリーの事件記者 木部美智子は、かねてから追っていた企業恐喝事件と、この連続殺人事件につながりがあることに気づく。
やがて、第三の殺人を予告する脅迫状が届き、事件は大きく動き出す。
吉沢末男は、シングルマザーのもとで生まれ、育児放棄に近い境遇にもめげず、7歳離れた妹の面倒を見ながら学校に通っていた。母親が家に連れ込んだ男たちが置いていく一万円札が唯一の収入源であった。
中学に上がると母親に「金を稼いで来い」と言われ、駅前の駐輪場から自転車を盗ったり、商店街で万引きを繰り返した。
末男は母親に内緒で高校を受験して合格。空き巣の手伝いで稼いだ金で卒業し、高校の担任の助力もあって、小さな工場に就職して真面目に働き始める。
しかし、母親が大きな借金を作り、その借金取りから「 うちの仕事を手伝わないか」 と誘われる。真面目に生きたいと望みながら、あがいてもあがいても犯罪から抜け出せない無間地獄。
一方、長谷川翼は慶応大学に通うハンサムな青年で、友達も多く、ボランティア活動もしている。
親は医者、妹も医大生で、大手広告代理店に就職が決まり、順風満帆である。
だが本当のところ、翼は裏カジノにハマっていて、2000万円の借金をつくり、闇金のとりたてに追われている。切羽詰まった翼は、女を使って手っ取り早く金を作ろうとする。
末男と翼、全く対照的な二人が出会い、一緒に一線を越えたことから、事件は起きるのであったが……。
子供は親を選べません。生まれた時からのあまりにも悲惨で不幸な末男の境遇。
本人が如何に努力しても、回りが彼の幸せを許さないと言わんばかりに、彼には過酷な試練が待ち受けています。
また、末男と同じような不幸な境遇で育った人間も、彼だけが努力したり、人並みに幸せになることを邪魔しようとする。クズは相手も自分と同じようなクズでないのが気にいらないのだと末男は気づくのでした。
最後に木部美智子は真相にたどり着き、それは世間に知らされる真相とは違うことになります。
しかし、結局美智子は真相を明らかにはせず、それがこの作品のせめてもの救いなのかも知れません。
望月諒子の他の作品もまた読んでみたいと思いました。