マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

平野啓一郎 ある男

 平野啓一郎の作品を初めて読みました。

 弁護士の城戸章は、かつての依頼者 里枝から奇妙な相談をうける。

 夫の谷口大祐が、仕事中の事故によって命を落とした。

 大祐の実家に連絡して、やって来た弟により、大祐が全くの別人だということが判明した というのである。

 宮崎県の真ん中あたりに位置する S市の小さな田舎町で、文房具屋の一人娘として生まれた里枝。

 高校を卒業後、神奈川県の大学に進学して就職し、25歳で一度結婚した。

 最初の夫は、建築事務所に勤務しており、悠斗 遼という二人の子供が生まれたが、遼は2歳の時に脳腫瘍と診断され、治療の術なく半年後に亡くなってしまう。

 遼の治療を巡って夫と対立したこともあり、その時被った傷を忘れられなかった里枝は、もう夫とはやっていけないと思うようになる。

 離婚調停はもめにもめたが、城戸のおかげで離婚は成立し、悠斗の親権も自分のものにすることが出来る。

 その後、ほどなく宮崎の実父が急逝し、里枝は悠斗を連れて実家に戻り、文房具屋を切り盛りするようになる。

 そこに客としてやって来たのが谷口大祐であった。スケッチブックと水彩画のセットという珍しい買い物をした 大祐は、その後もしばしば店を訪れるようになる。

 里枝は物静かな彼に好感を持ち、二人は互いに惹かれ合い、結婚する。

 悠斗も大祐になつき、平凡ながら幸せな家庭を築いていたのだが、そこに突然の不幸な事故。

 その上、彼が本当は大祐ではなかったとういう事実。一体死んだ夫は誰だったのか?

 城戸は、その見知らぬ男性Xの素性を調べることになる。

 Xの過去が明らかになっていき、不幸としか言えない生い立ちを知って、やりきれない気持ちになってしまいました。

 人間は親を選ぶことが出来ません。親の身勝手によって、また親の犯した罪によって幸せになれない子供がいるとしたら、あまりにも不憫です。

 誰にでも愛し愛される権利があります。愛にとって過去とは何か?

 城戸は、すべての報告を終えた後、こう言いました。

「彼は、里枝さん一緒に過ごした3年9ヶ月の間に、初めて幸福を知ったのだと思います。短い時間でしたが、それが彼の人生のすべてだったと思います」と。

 短くても幸せな時間があったことで、Xは満足だったのでしょうか?

 また、有能で恵まれた環境に育ったと思われる弁護士 城戸も、自分の出生によって差別を感じ、傷つくこともあるのでした。

 ごく普通に育った私には、あまり実感することのないテーマですが、読み進めるうちに、考えさせられることが多々ありました。

 平野啓一郎 の他の作品も読んでみようと思っています。