マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

貫井徳郎 愚行録

 閑静な住宅街のしゃれた一軒家で、一家4人が残忍な方法で殺害された。

 早稲田をでて、大手ディベロッパーに就職し、同世代の男性に比べれば破格の収入を得ていた夫。

 聖心から慶応に入り、美人で常に人の輪の中心にいた お嬢様育ちの妻と、可愛らしい二人の子供。

 絵に描いたような幸せな家族が、何故残忍な殺され方をしたのか?

 物語は、被害者について、近所のひと、同僚、同級生などのインタビューを通して語られてゆく。

 一見完璧に見える、被害者 田向夫妻。

 でもインタビューされた人たちにとっては、彼等はどう映っていたのか?二人の隠された実情が少しずつ明らかになってゆく。

 語り手は、田向夫妻を一応は褒めるのですが、彼等が本当に語りたいのはそこではなく、夫あるいは妻の欠点や身勝手な部分のように思います。

 学生時代の田向夫人は、実に巧妙に立ち回ることのできる自己中な人間であり、人当たりがよさそうに見えて、裏ではかなりの策略家であったらしい。

 夫も誠実で優しそうに見えるが、自分の就職や将来ためなら、平気で人を利用したり、陥れたり、利用価値のなくなった女性を捨てたりする。

 こんな嫌な人であったのだ と訴えようとする語り手。

 しかしそれは直接的な言い方ではなく、「死んだ人を悪く言いたくはないのだけれど……」「私が貶めようとしているのではない。あの人はそんな風に思われていたのではないか? 私は別に興味はなかったのだけれど……」という自己弁護や自己の正当化があったりして、語り手の嫌な部分も見えてくるのです。

 確かに 穏やかで、優しそうに見えるのに、結構計算高く、陰でこそっと人のことを悪く言う。でもはっきりとは言わない、オブラートに包んで人を貶める。

 また、はっきり自分がどうしたいとは言わないくせに、巧妙に立ち回って結局最後には自分の意見を通してしまう。といったずる賢い人を私自身も今まで何人か見てきました。

 でも、みんないつまでも騙されていないものですよ。

 「あの人賢いわね!」と皮肉を込めて言われ、あの人には用心しなければ……。と思われて本当の友人なんてできないものです。

 人が他の人を語るのは、なかなか難しいものです。

「愚行録」は、被害者夫婦の愚かな若き日の行動だけでなく、自分が見透かされていることに気づかずに、滔々と他者を評価してみせる証言者たちこそが 愚か なのであり、そんな人々を集めたものがこの「愚行録」だと 解説にありました。

 各章ごとに挿入されるある女性のモノローグが、主のストーリーとどう関わってくるのかというところも、この作品を興味深くしています。

 確かに人間の心には、愚かで醜い部分があります。この作品を読んで納得したところも少なからずありました。

 しかし、多くの人は、やはり きれいな心も持っているとのだ と信じたいですね。