マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

沼田 まほかる 彼女がその名を知らない鳥たち

 数年前初めてこの作品を読んだ時、強い衝撃を受けましたが、久しぶりに読み返してみて、やはり凄い作品だなあ と思いました。

 北原十和子 33歳。15歳年上の佐野陣治と籍は入れずに一緒に暮らしている。

 陣治は6等身の小男で、学歴もなくお金があるわけでもない。口臭が強く、食べ方が汚い。不潔で下品で不器用。普通の女性なら、最も付き合いたくないタイプの男性と言えるだろう。そんな陣治を十和子は容赦なく罵倒し、徹底的に責め軽蔑する。

 彼女は、8年前に別れた黒崎俊一をどうしても忘れることができない。彼女を利用するだけ利用して、ボロ雑巾のように捨てた男であるにもかかわらずである。

 しかし、十和子は陣治に養って貰っている。彼が頭金を払い、ローンを背負ったマンションに暮らし、働くどころかろくに家事もせず、一日中 DVD を観てダラダラと過ごしている。

 陣治からすれば、十和子も随分酷い女であるはずだが、彼はいつも彼女の機嫌を取ろうとする。仕事から帰ってから二人分の食事を作り、彼女が寝付くまでマッサージをしてやるのだ。

 やがて十和子は、腕時計を修理に出したことをきっかけに、デパートに勤務する水島に出会い、彼に強く惹かれ関係を持つようになる。

 彼女の変化に気づいた陣治は、二人を尾行し、水島に嫌がらせを繰り返して益々十和子から疎まれるようになるが、それでも陣治は彼女の傍を離れようとはしない。

 ある日、十和子が無意識に黒崎の携帯に電話してしまったことがもとで、刑事が十和子を訪ねて来る。黒崎は、5年前に失踪したというのだ。

 昔 黒崎から貰ったダイヤのピアスが、陣治の部屋の小銭が入った瓶の中に入っているのを見つけた十和子は、陣治が黒崎を殺したのではないかと疑い始めるのだが………。

 十和子の好きになる男は、皆 見てくれがよく、身のこなしがスマートで口が上手い。   でも内容のない薄っぺらな男ばかりです。そんな男達に騙され、壊れてゆく十和子が憐れでもあり、なんて愚かなのか と思わずにはいられません。

 人は皆、誰かを愛すれば見返りを求めてしまう、相手からも愛されたいと願うはずです。なんの見返りも求めない無償の愛が本当に存在するのか?

 そして思わぬ真相が明らかになる衝撃のラスト!言葉にならないほどの驚きとため息がもれてしまいます。

 書評にある通り、「これを恋と呼ぶのなら、私はまだ恋を知らない。」という言葉が全てを表しているのかもしれません。

 一生に読む本の中で、どおしても忘れることができない本が何冊かあるとしたら、私にとって この「彼女がその名を知らない鳥たち」は、その一冊になると思いました。