マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

貫井徳郎 空白の叫び

 宮部みゆきの「模倣犯」を読んだ時のような衝撃を受けた作品に、久しぶり出会いました。1300ページを超える大作ですが、全く長さを感じませんでした。

 「空白の叫び」のテーマは、法で裁くことのできない 少年犯罪 である。

 第一部は、主人公の三人が出会う前の物語である。犯罪とは無縁の世界にいた彼らが、殺人犯になるまでの別個の話を描いている。

 一人目の主人公は、ごく普通の家庭に育った久藤美也。小学校時代にいじめられたことが原因で、粗野で気性の荒い性格である。同級生や教師を問わず、常に他人を怯えさせ、自分に屈服させることに快感を覚えている。

 二人目は、自宅の離れに使用人一家が住んでいるほどの裕福な家庭に育った葛城拓馬。品行方正、成績優秀、容姿端麗と非の打ち所がない少年である。不幸な点と言えば、両親の離婚によって母親と別れ、今の義母は父の四番目の妻という複雑な家庭に育っているということ。使用人の一人息子 英之によって心の平穏を乱されていることくらいである。英之は、肥満にして愚鈍。飽きっぽく、堪え性がない。努力をしようとしないので、何一つ満足に出来ることがなく、それを皆他人のせいにして、裕福な拓馬を羨み、僻んでいる。しかし、拓馬の父はそんな英之を不憫に思うのか、拓馬に英之に優しくしてやるようにと命じるのである。

 三人目は、貧しい家庭でつつましやかに暮らす神原尚彦。父親に死なれ、母親は家出中により、母方の祖母と叔母に育てられてきた。両親のいない自分を不幸だと思っているが、家族思いの素直で優しい少年である。しかしある日、祖母が病に倒れたことがきっかけで、彼の日常は激変していく。

 また、久藤が通う中学校の非常勤教師、柏木理穂の視点が中盤から入ってくる。

 そして第二部では、罪を犯して少年院に入った3人の少年の出会いと過酷な生活。

 第三部では、3人の少年院卒院後の生活と再会、そして新な犯罪に手を染めていく過程が描かれている。

 どこにでもいるごく普通の少年が、ふとしたことをきっかけに、悪に染まり、恐ろしい罪を犯す。ずるく卑怯になり、人を利用したり、陥れることをなんとも思わなくなることを本当に怖いと思いました。

 また、どんなに完璧に見える人間にでも、breaking point があり、それを超えると自分を抑制出来なくなるのだ とわかった思いがしました。

 しかし、すべての悪の根源は、彼らを取り巻く大人達の身勝手な生き方にあったのだと言えるでしょう。

 人は、人をそこまで憎むことが出来るのか?
 人を憎むことでしか 自分が生きる意義を見出せない不幸な人間がいるのか?
 只々、ため息!でも凄い作品でした。面白かった!!