マミコのひとりごと。

面白かった本をご紹介致します

藤田宜永 愛さずにはいられない

 藤田宜永の自伝的小説で、彼が高校生時代の話、人生の中で一番壊れていた時代を書いたそうです。

 1960年代後半、藤岡芳郎は福井の比較的裕福な家庭に育ち、東京にある難易度の高い有名男子校に合格して、下宿暮らしを許されたのにもかかわらず、ろくに勉強もせず、出鱈目な日々を送っている。

 新宿歌舞伎町のゴーゴークラブに出入りし、20歳と偽って酒を飲み、たばこを吸い、踊りに来る若い女達を誘っては、束の間の快楽に溺れる。

 そんな中、帰省していた時に一つ年上の同郷の女性 由美子に出会い、彼は初めて恋に落ち、その後、親の目を盗みながら、東京で半同棲生活を始める。

 つまらぬ嫉妬や行き違いから、何度も大喧嘩を重ねるが、それでも二人は離れられない。

 そんなに彼女が好きなら、彼女一途になればよいと思うのですが、遊びは遊びと彼はナンパを止めることをしません。

 また、彼女も束縛されることを嫌い、芳郎から「 昨日どこへ行っていたんだ?」などと聞かれるとたちまち不機嫌になってしまいます。

 親のすねをかじっている身で、しかも高校生。なんとハチャメチャな奴だとあきれながらも最後まで読んでしまいました。

 彼の心の中には、母親への憎悪が深く影を落としており、それがなんとなくですが、理解できるからかもしれません。

 芳郎の母親は、愛情表現が大変下手であり、母親の発する言葉一つ一つが彼の神経を逆なでするからなのでしょう。

 親子だからみんなが必ず愛情を持てる、理解できる、ということはないと思います。     親子でも人間同士、相性があるのです。

 私自身も父親と相性が悪く、別に憎むというほどではないですが、最後まで、父親を好きだと思ったことはありませんでした。

 ただ、歳を重ねて「私は好きではなかったけれど、あの人はああいう人だったのだ。」と達観できるようになったのは確かです。

 藤田宜永の69年間の生涯の中で、最初で最後の私小説。年代的には、私より7~8年ほど前の青春時代ということになるのでしょうが、なぜか懐かしく感じました。

 好みはあると思いますが、会話が活き活きとしていて私は好きです。