貫井徳郎 新月譚
美貌の女流作家 咲良怜花。彼女は、9年前 突如として筆を折った。
彼女の大ファンである 若手編集者の渡部敏明は、怜花に絶筆宣言をした理由を聞き出し、執筆を再開して貰おうと彼女の自宅を訪れる。
数回の訪問によって、敏明の真摯な思いに心を動かされた怜花は、沈黙を破り語り始める。 ある男との恋の顛末を。
怜花の本名は、後藤和子。容姿に自信がなく内気な性格。対人関係が原因で大手企業を退職し、再就職の面接に行った小さな貿易会社で、そこの社長である木之内徹と出会うことになる。
採用された和子は、ほどなく木之内と深い関係になるが、元々浮気性の木之内は、何人にもの女性と交際し、和子の高校時代の親友である 川村季子とも関係を持つ。
季子は妊娠し、木之内は季子と結婚。和子は絶望し会社を退職する。
そして別人になって人生をやり直そうと、小説書き始めるのだが……。
木之内は、私の賢さを褒めてくれた。私の内面を認めて、吸収するべき刺激を与えてくれた唯一の男性。そんな思いからか和子は彼を忘れることができない。
新人賞を受賞してデビューしたときも「和子には特別な才能が眠ってると思ってたよ」と 木之内は心から喜ぶ。
変貌を遂げる前のかつての自分を知ってくれている、という信頼感から、和子は木之内への依存度を増していくが、またも彼に裏切られることになる。
深い絶望に直面した和子は、暗くよどんだ情念を原稿に注ぎこんで、傑作「薄明の彼方」を書き上げるのであった。
今まで読んだ 貫井作品とは違い、女性が書いたのかと思うほど、揺れ動く女心が伝わってくる作品だと思いました。
一般的にみれば、不実で酷い男のように思われる木之内も、和子にとってはどうしてもあきらめきれないほど魅力的な男性であったのか?
彼女の視点で見れば、なんとなく憎めないのです。
そんな女心を巧みに描いている貫井徳郎!こんな作品もかくのね!と改めて好きになりました。